同族経営はなぜ生産性が上がらないのか|改善したいのに変われない構造と、経営者・従業員それぞれにできること

この記事でわかること

  • 同族企業(ファミリー企業)は、生産性上昇率が同規模の非同族企業より年率2%程度低い一方、存続確率は高いという実証研究がある
  • この差は「経営者や従業員のやる気の問題」ではなく、多くの場合「組織の構造」が原因である
  • 改善が続かない会社には、ゴールのズレ・時間軸のズレ・インセンティブのズレ・フィードバック不全という4つの構造的な壁がある
  • 経営者にできることと、従業員にできることは別々にある。両方が動いて初めて会社は変わる

目次

はじめに

「もっと会社を良くしたい」

「社員が働きやすい会社にしたい」

「この会社を次の世代まで残したい」

ファミリー企業の経営者には、こうした思いを持っている人も少なくないでしょう。

ところが、実際の会社では、

  • 改善提案が続かない
  • 同じ問題が何度も繰り返される
  • 新しい設備を入れない
  • 人が辞めても仕組みが変わらない
  • 社員が会社の方針に納得していない
  • 経営者と社員の間に温度差がある

といったことが起こります。

一見すると、「経営者が改善を望んでいない」ように見えるかもしれません。あるいは「社員のやる気がない」ように見えるかもしれません。

しかし、問題はもっと複雑です。

経営者は会社を良くしたいと思っている。社員も、会社が良くなってほしいと思っている。

それでも、組織構造や心理的要因によって、その意思が改善行動につながらない場合があります。

この記事では、「なぜこうなってしまうのか」を組織の構造として分析したうえで、経営者にできること、そして今まさに現場で働いている従業員にできることの両方を提示します。会社を変えるのを経営者だけの仕事にせず、日本中の中小企業がこの構造から抜け出すための一歩を考えます。


ファミリー企業は、本当に改善したくないのか?

まず、ここを誤解してはいけません。

ファミリー企業だからといって、「保守的で改善したくない」とは限りません。むしろ逆の場合があります。

経営者は、

「会社をもっと良くしたい」 「この会社を潰したくない」 「社員の生活を守りたい」 「子どもや次の世代に会社を残したい」

と考えている。つまり、改善したいという意思はあるのです。

問題は、その意思が組織全体の改善行動につながらないことです。


「会社を存続させる」という強い目的

ファミリー企業では、会社の存続が非常に重要な経営目標になることがあります。会社は単なる利益を生み出す箱ではなく、経営者にとっては自分が築いたもの、家族が受け継ぐもの、社員の生活を支えるもの、地域とのつながり、一族の歴史でもあります。

そのため、「何としても会社を残したい」という強い意思が生まれます。

実際、経済産業研究所(RIETI)の森川正之氏による実証研究(RIETI Discussion Paper Series 08-J-029「同族企業の生産性-日本企業のマイクロデータによる実証分析」)では、非製造業や中堅企業を含む幅広い企業データを用いた分析の結果、次のことが確認されています。

  • 同族企業は、企業規模・企業年齢・産業などの条件をそろえたうえで比較しても、労働生産性・TFP(全要素生産性)の上昇率が年率2%程度低い
  • 一方で、同族企業は「企業の存続」を経営目標として重視しており、6年後の存続確率が高い
  • 存続確率の高さや株式所有構造の影響を考慮して推計し直しても、生産性上昇率が相対的に低いという結果は変わらない(頑健な結果)
  • ただし、株式を上場・公開している同族企業に限れば、非同族企業と生産性上昇率に差はない

これは、「同族企業だから悪い」という意味ではありません。むしろ、「長く残ること」と「生産性を高めること」は、必ずしも同じ方向に働くとは限らないということを、データが示しているのです。


「会社を守る」と「会社を変える」は、ときに衝突する

会社を存続させようとすると、経営者はリスクを避けたくなります。

「大きな設備投資は危険だ」「借金を増やすのは怖い」「新しいことを始めて失敗したくない」「今の顧客を失いたくない」という判断です。これは経営者から見れば合理的です。会社を潰してしまえば、すべてが終わってしまうからです。

しかし、環境が変化している場合、変わらないこと自体がリスクになることがあります。

設備が古い → 生産性が低い → 利益が出ない → 設備投資できない → さらに設備が古くなる

という悪循環です。「会社を守るために投資しない」という判断が、結果として「会社を弱くする」ことがあります。


父性的経営という強さと弱さ

ファミリー企業では、経営者が「父親」のような役割を担うことがあります。ここでは、これを父性的経営と呼びます。

「俺が会社を守る」「社員のことは自分が考える」「会社のことは経営者が決める」というスタンスです。これには良い面があります。意思決定が速く、責任の所在も明確です。

しかし裏返すと、社員を「経営に参加する主体」ではなく、「守られる存在」として扱ってしまう可能性があります。「経営は社長が考える」「社員は言われたことをやる」という関係になると、現場にある問題や改善案が経営に戻ってきません。


改善しても報われない会社では、改善能力が失われる

ここで重要になるのが、インセンティブです。

社員が改善活動を行い、作業時間が短くなった、不良が減った、段取りが改善されたとします。しかし、その結果「じゃあ、もっと仕事を増やせるね」となったらどうでしょうか。

改善した社員からすると、「改善したら自分が楽になるどころか、仕事が増えた」となります。「改善したのに評価されない」「改善しても給料は変わらない」「改善した結果、次からそれが当たり前になる」という経験が積み重なれば、社員は合理的に判断します。

「改善しない方が得だ」

これは社員の意識が低いのではありません。組織のインセンティブ設計の問題です。

例えば、Aさんが改善活動を積極的に行い、職場全体が効率化したとします。しかし会社からの評価が「Aさん=少し仕事が増えた」「Bさん(今まで通り仕事をした人)=今まで通り」だったとしたら、次にAさんのような人が現れる可能性は低くなります。組織は「改善を促す学習」ではなく、「改善しないことを学習してしまう」のです。


経営者と社員では「時間軸」が違う

もう一つ、大きな問題が時間軸の違いです。

経営者は「10年後も会社を残したい」と考えているかもしれません。一方、社員は「今年の給料はどうなるのか」「残業は減るのか」「3年後に自分はこの会社にいるのか」を考えています。

ビジョンが違う

経営者が「今は会社を守るために我慢してくれ」と言い続けると、社員にとっては「いつまで我慢すればいいのか」となります。長期的な経営と短期的な生活。この2つをつなぐ説明がなければ、共有ビジョンは成立しません。

経営者のゴール(会社を100年続ける)と社員のゴール(安定した生活を送りながら、自分の能力を高める)は、本来なら対立する必要はありません。会社が成長すれば、給料が上がる、雇用が安定する、技術が身につく、設備が良くなるという形で、双方にメリットがあります。問題は、そのつながりが見えなくなったときです。


本当に怖いのは「フィードバックがなくなること」

本来、経営は次のような循環になっているべきです。

経営者が方針を決める → 社員が実行する → 現場で結果が出る → 社員が問題や違和感を伝える → 経営者が判断を修正する → 再び実行する

これは一種の学習サイクルです。ところが、「社長に言っても無駄」「昔からこうだから」「余計なことを言うな」という文化になると、フィードバックが止まります。すると経営者は「現場は特に問題ない」と思ってしまいますが、実際には問題がないのではなく、問題が経営者に届いていないだけかもしれません。

改善できる組織では、むしろ問題がたくさん出てくることがあります。一見悪い会社に見えるかもしれませんが、「発見する→共有する→改善する→また発見する」という循環が回っているなら、組織は学習しています。反対に「うちの会社では問題は起きていません」という会社は、社員が何も言わなくなっただけかもしれません。問題が見えないことは、健全な状態とは限りません。


日本の生産性問題とも無関係ではない

中小企業庁によれば、中小企業・小規模事業者は日本の雇用の約7割を占めています。一方、企業規模別の労働生産性を見ると、中小企業は大企業より低い水準に多く分布しており、中規模・小規模企業の労働生産性は長期的に横ばい傾向が続いています。

つまり、中小企業の生産性をどう高めるかは、日本経済全体にとっても重要な問題です。

(・・話が大きくなっていますが・・)

もちろん、「ファミリー企業だから日本の生産性が低い」と単純に結論づけることはできません。中小企業とファミリー企業は同じ概念ではなく、生産性には業種、規模、設備、IT化、人材、価格設定など、さまざまな要因が関係するからです。

しかし、改善したい経営者と、改善能力を持っている社員が存在しているにもかかわらず、組織構造によってその能力が十分に発揮されていないとすれば、それは企業単体の問題にとどまらない可能性があります。

この点は、単なる精神論ではありません。2025年版中小企業白書(中小企業庁)では、従業員への経営理念・ビジョンの共有、経営情報の共有、業務の属人化・ブラックボックス化の防止などを「経営の透明性」として分析しています。この白書によれば、経営理念・ビジョンを従業員に共有している企業は、共有していない企業に比べて売上高・売上高増加率がともに高い傾向にあり、経営理念や経営情報の共有は従業員の主体性を高め、改善・効率化等の行動を促すことで付加価値額の向上につながっている可能性があるとされています。また、経営の透明性向上(経営情報の開示や業務の属人化防止)に取り組む事業者ほど、付加価値額が増加している傾向も報告されています。

つまり、「社長が考えていることを社員に伝える」ことは、単なる社内コミュニケーションではなく、経営そのものに関係すると考えられます。


経営者にできること|組織の構造を変える

ファミリー企業の特徴を否定する必要はありません。むしろ、強みを残したまま、学習能力を高めることが重要です。

1.「会社を守る」を具体化する

「会社を守る」だけでは社員には伝わりません。5年後にどんな会社にするのか、生産性をどこまで高めるのか、賃金をどうしていくのか、どんな設備投資をするのか、どんな人材を育てるのかまで具体化します。

2.改善した人が報われる仕組みを作る

改善によって生まれた利益や時間を、賃金・賞与・評価・自由時間・教育機会などに還元する。少なくとも「改善したら仕事が増えるだけ」という状態は避ける必要があります。

3.経営者と社員の時間軸をつなぐ

「10年後の会社」の話だけでなく、「今年何を変えるのか」まで落とし込む。長期ビジョンと短期的な成果をつなぐことで、社員も会社の将来を自分の問題として考えやすくなります。

4.悪い情報ほど上がってくる仕組みを作る

経営者にとって、「問題がない」という報告より「ここが問題です」という報告の方が価値があります。だからこそ、悪い情報を持ってきた人を責めないことが重要です。問題を報告した人が損をする組織では、問題は必ず隠れます。

5.経営者自身がフィードバックを受ける

最も難しいのがここです。経営者は「自分が会社を守ってきた」という強い経験を持っています。だからこそ、「自分の判断も間違っているかもしれない」という前提を持つことが重要になります。これは経営者を否定することではなく、これまで正しかった判断が、これからも正しいとは限らないというだけです。


従業員にできること|構造が変わるのを待たずに、自分の力を積み上げる

ここまでは経営者側の課題です。しかし、組織の構造は経営者が変えようとしても、すぐには変わりません。実際にこの記事を読んでいるのは、経営者よりも、今まさに現場で「改善しても報われない・・・・」と感じている従業員の方かもしれません。

だからこそ、みなさんにはっきり言っておきたいことがあります。

組織のインセンティブ設計が不十分だとしても、それはあなたが改善提案をやめる理由にはなりません。

もちろん「頑張っても無駄」という感覚は、決して的外れではありません。前述の通り、それは組織構造が引き起こしている合理的な反応です。しかし、視点を変えると、改善提案には会社の評価制度に関係なく残るものがあります。

1.改善提案の経験は、会社の評価より先に「自分の実力」として残る

不良を減らした経験、段取りを見直した経験、問題を発見して原因を特定した経験は、たとえ今の会社がそれを評価しなくても、あなた自身の実務能力として蓄積されます。これは異動しても、転職しても、独立しても失われません。是非、前向きに考えてほしいです。

2.資格は、組織の評価制度に依存しない「客観的な証明」になる

QC検定やボイラー技士、電気工事士のような資格は、社内の人間関係や評価者の主観に左右されない、外部から見える実力の証明です。今の職場でその努力がすぐに給料や評価に反映されなくても、資格という形で残った実力は、次の機会(社内異動、転職、独立)で必ず武器になります。**「会社のために頑張る」のではなく、「自分の市場価値のために積み上げる」**という捉え方に切り替えることで、頑張る理由を組織の評価制度から切り離すことができます。

3.小さく、記録に残る形で改善提案をする

大きな改善を一度にやろうとすると、潰されたときのダメージも大きくなります。日々の小さな改善を、口頭ではなく記録に残る形(提案書、チャットログ、業務日誌など)で残しておく。それは会社に評価されなくても、自分のキャリアの実績として、次の職場や次の役割で説明できる材料になります。

4.「言っても無駄」と「言わない」は違う

フィードバックが機能しない組織文化があるとしても、一度言って終わりにせず、記録に残しておくことには意味があります。仮に今の経営者に届かなくても、いずれ組織が変わるタイミング(代替わり、外部人材の登用、制度改定)で、その記録が再評価される可能性はゼロではありません。

会社の構造が変わるかどうかは、経営者の判断に委ねられています。しかし、あなた自身の実力が積み上がるかどうかは、あなた自身の判断です。この2つを分けて考えることが、「懲りずに頑張る」ための現実的な土台になります。

ここからは、私自身の経験に基づく個人的な意見です。データで裏付けられた話ではないので、参考程度に読んでください。

経営者や上司に対して、組織上の問題点を指摘したり改善提案をしたりするのは勇気がいります。うまくいかない職場があるのも事実です。ただ、私自身の経験では、伝え方やタイミングを選べば、指摘や提案がきっかけで関係がこじれるよりも、むしろお互いの見え方や考え方が変わり、コミュニケーションが深まったケースの方が多かったと感じています。

もちろん、これは「言えば必ずうまくいく」という意味ではありません。フィードバックを歓迎しない文化が根強い職場では、慎重な判断も必要です。それでも、黙っているだけでは何も変わらないのも確かです。だからこそ、小さな一歩からでも試してみる価値はあると思います。


なぜこうなってしまうのか|日本の中小企業を変えていくために

ここまで読むと、「ファミリー企業が日本の生産性の足を引っ張っているのではないか」という疑問が出てくるかもしれません。

しかし、そこは慎重に考える必要があります。ファミリー企業だから生産性が低い、と単純に決めつけることはできません。一方で、日本企業を対象とした実証研究では、同族企業に「存続を重視する」という特徴と、生産性上昇率が相対的に低いという結果が同時に、かつ頑健な形で確認されています。また、日本の中小企業全体では大企業との労働生産性格差が存在し、政府も生産性向上や経営の透明性向上を重要な政策課題として位置づけています。

だからこそ、問い直す価値があります。

「改善できない会社」には、改善する能力が本当にないのだろうか?

もしかすると、改善する能力はあるのに、それを発揮できない組織構造になっているだけではないでしょうか。経営者は会社を残したい。社員も会社を良くしたい。それなのに、ゴールが違う、時間軸が違う、インセンティブが合わない、現場からのフィードバックが止まる。こうしたことによって、改善能力が眠ったままになっている。

だとすれば、問題は「社員の意識」だけでも「経営者の姿勢」だけでもありません。会社そのものが学習できる構造になっているかを、経営者と従業員の双方が考える必要があります。

会社を守ることを最優先にするファミリー企業だからこそ、「変わらないこと」ではなく「変わり続けられること」を目指す。それが、長く会社を残すための一つの方法かもしれません。

そして、この問題はファミリー企業だけの問題ではありません。「改善したいのに改善できない」という組織が日本中に存在するなら、それは個々の会社の問題を超えて、日本全体の生産性や競争力にも関係してくる問題です。

経営者は組織の構造を変える。従業員は、構造が変わるのを待つだけでなく、自分の実力を積み上げ続ける。経営・組織・インセンティブ・ビジョン・フィードバックを含めたシステムとして考えながら、両方が同時に動くことが、日本の中小企業がこの構造から抜け出す現実的な道筋です。


よくある質問

Q. 同族企業は本当に生産性が低いのですか?

A. RIETIの実証研究(森川正之, 2008)では、企業規模や業種などの条件をそろえて比較した場合、同族企業の労働生産性・TFP上昇率は非同族企業より年率2%程度低いという結果が報告されています。ただし、上場・公開している同族企業に限れば、この差は見られません。また、この結果は「同族企業だから経営が悪い」ことを意味するものではなく、存続を重視する経営姿勢との関連が指摘されています。

Q. 経営者が変わらない場合、従業員には何ができますか?

A. 組織の評価制度がすぐに変わらなくても、改善提案の経験や資格取得は、あなた自身の実務能力として社外でも通用する形で蓄積されます。会社の評価とは別に、自分のキャリア資産を積み上げるという視点を持つことが有効です。

Q. 「共有ビジョン」とは具体的に何をすればよいのですか?

A. 経営理念を社員に暗記させることではなく、経営者の目指す方向性を、生産性・賃金・設備投資・人材育成といった具体的なテーマに落とし込み、経営者と社員が一緒に考えられる状態を作ることです。2025年版中小企業白書でも、経営理念・ビジョンを共有している企業ほど売上高や付加価値額が高い傾向が報告されています。

この記事を書いた人

いくつかの製造業を経験し、工場勤務を続ける中でスキルアップの重要性を実感。独学で複数の国家資格を取得してきました。
保有資格:第二種電気工事士、2級ボイラー技士、危険物取扱者乙種第4類、品質管理検定2級(QC検定2級)、食品表示検定中級。
現場経験を活かし、資格取得を目指す方へ実体験に基づいた学習方法やキャリア形成のヒントを発信しています。

目次